2022/01/16 更新   排便講座(連載)のトピックス

 「腹が立つ」「太っ腹」「腹をくくる」「腹の虫が治まらない」「腹黒い」「腹を割って話す」「腑に落ちない」・・・私達は心(脳)と腹(腸)を結びつける言葉を知らず知らず使用していますが、脳と腸の相関性について知識があるわけでもなく、経験的になんとなく気づいていたように思われます。人前で発表したり、試験を受ける前は腹痛をもよおしたり下痢したり、旅先では便秘したりします。またトイレのことが気になるとイライラ、頭痛、不眠となり、自律神経失調をきたし、便秘、下痢、腹痛を生じ、ますます悪循環に陥ってしまします。このような病態は一般に過敏性腸症候群といわれていますが、医療機関を訪れて大腸内視鏡検査を受けても異常ありませんよと一蹴され、市販薬でなんとか我慢していることはよく見かけられます。この原因としては脳や自律神経や内分泌その他が相互に関与しているためであり、これらの関係を脳腸相関と呼ばれています。わかりやすく言い換えれば「腸は心の鏡」であり、同時に「心は腸の鏡」でもあるわけです。(図1)

そのため腸は「第2の脳」といわれきましたが、最近では腸はひょっとすると「第1の脳」ではと思われる知見がたくさん報告されてきており、興味を惹かれる内容を紹介します。

図1 ウエスト動物病院メルマガバックナンバー No163より

■1.私たちの体は「腸」から作られる!

 受精卵の外側がくぼみ、その口が閉じ、「腸」が形成され、腸がのびて「口」と「肛門」ができます。さらに栄養をためる「肝臓」ができ、酸素をためる「肺」ができ、そして上の方が膨らみ「脳」ができます。脳は腸の出先機関として進化したのではないか?ということがうかがわれます。(図2)無菌マウスの脳を調べると、学習能力がなく、性格も無気力で、無謀な行動をするといいます。腸内細菌がいないと、脳が育たないわけです。

 また進化の過程においても脳のない生き物はいますが腸のない生き物はいません。クラゲやイソギンチャクは腸はありますが、脳はありません。生き物の進化においても、まず腸ができ、その周りに神経系ができ、脳(中枢神経系)ができるのはその後です。生き物にとって「腸こそ生命の起源」といっても過言ではありません。

図2 米科学アカデミー紀要 2011より

■2.腸は独立した神経系をもつ

 腸には脳に次いで1億以上の神経細胞があり、これは脊髄や末梢神経系より多く、脳とは独立して自らの判断で機能しています(自律神経といわれるゆえんです)。つまり腸は脳からの信号を待つことなく消化吸収排泄の重要な機能を果たしており、新生児期の脳(無力な脳)でもなんら問題なく腸管機能が保たれていることを考えると妥当なことに思えます。

■3.腸が脳に感情や性格のサインを送っている

 腸には迷走神経という太くて大きな神経が埋め込まれていますが、その繊維の90%までが腸から脳へと情報を運んでいることが明らかになってきました。言い換えると、脳は腸からの信号を感情として解釈し表現しているのです。第六感のことを英語では「gut feeling」といいますが、ここでいう「gut」は腸のことであり、腸が感じたものを第六感としている点は興味がもたれます。またドーパミン(快感ホルモン)、ノルアドレナリン(ストレスホルモン)、セロトニン(幸せホルモン)は感情(性格)を支配する代表的な脳内神経伝達物質といわれていますが、その多くは腸で作られます。特にドーパミンやノルアドレナリンの暴走をも抑えるセロトニンは腸(腸内細菌との協同作業)で作られ、体内のセロトニンの90%は腸に存在し、腸管の蠕動運動に関与し、多ければ下痢をきたし、少なければ便秘になります。脳内に存在するセロトニンは2%のみです。うつ病の人は脳内のセロトニンが少ないといわれており、セロトニンが増えれば幸せな気持ちになります。セロトニンを増やす操作と深くかかわっているのが腸内細菌(特定の腸内細菌が明らかになっています)であり、まさに「腸」を整えれば「心」が整うのです。

■4.腸に宿る免疫細胞が病気から守ってくれている

 腸には体内の70%という大量の免疫細胞が宿しており、これは腸関連リンパ組織といい、外部からの細菌や食事性の毒物などの侵入を撃退してくれています。私たちは口から摂取するものにどのような菌がいて、体にとって有害かどうかは、見た目や匂いくらいしか判別できず決して脳で識別できないため「食べろ」と指令を出します。しかし腸に危険な食物が入ると、腸の神経細胞や免疫細胞が判断し吐き出したり下痢を起こさせます。腸は病気にならないように(生体防御機構といわれます)懸命に(賢明に)働いてくれています。

 以上のことなどから腸が脳に比べていかに優れた器官であるか、もしかすると腸は「第1の脳」と思ってもらえたかもしれません。いずれにしろ私たちは「腸の声」に耳を傾け、腸を整え、脳に良い影響を与えられるよう腸を大切にする必要があります。